エンリルの赦し

エンリルの赦し----------------------------------------------------------------------------------------------

 更に2、3日経ち、船は双子山の岩に停止した。「我々は救済の山にいるのだ!」とニナガルが言った。ジウスドラはハッチを開けた。外は晴れて穏やかで、彼らは外に出た。ジウスドラは「主エンキを褒め称えよ!主に感謝せよ!」と言った。ジウスドラは息子たちと石を集め、祭壇を築いて灯りをともし、香を焚きしめ、雌の子羊を生贄として捧げた。
 その時、地球の状況を把握するために、エンリルとエンキが空から“つむじ風(ヘリコプターに似た空中輸送機)”に乗って、アララト山に降りて来た。エンリルは、焚き火と肉が焼ける仄かな香りに当惑した。「大洪水を生き延びた人間がいるのか!」エンキと共にその方角に行ってみると、船、ジウスドラ、祭壇、そしてニナガルの姿が見えた。ニナガルを見つけたエンリルの激高は、留まるところを知らなかった。「地球人はすべて滅ぼすはずだった!」エンリルはエンキに詰め寄り、素手で殴り殺すのも辞さないほどの構えだったが、「彼はジウスドラ、私の息子だ!」とエンキは抗議した。「お前、誓いを破ったな!」「私はジウスドラにではなく、葦の壁に喋ったのだ。誓いは破っていない!」と言い、エンキはエンリルにガルズの夢の話をした。

 それから、ニナガルの知らせでニヌルタとニンマーが降りて来た。「人類の生存は、“万物の創造主”の御意思に違いありません」とニヌルタが言った。ニンマーはアヌからの贈り物である水晶のネックレスに、「人類の絶滅を二度と企てたりしません!」と誓った。エンリルは態度を軟化させ、ジウスドラと彼の配偶者エムザラの手を取り、祝福した。「実り豊かで増殖せよ!そして、再び地球を満たすのだ!」こうして、‘昔の時代’は終わりを告げた。

 聖書では主は唯一絶対的存在のため、この場面は矛盾している。主が自ら人類を創造したものの、人類に対して嫌気がさし、洪水で滅ぼそうとした。しかし、洪水後は増殖することを認めたという内容である。実は、人類を創造したのはエンキ、ニンマー、ニンギシュジッダであり、それを快く思わず、迫り来る大洪水で滅ぼそうとしたのはエンリルであり、人類を大洪水から助けたのはエンキとニナガルであり、赦しをエンリルから導いたのはエンリルの長男ニヌルタとその母でエンリルの元愛人ニンマーだったのである。
 人類を快く思わない怖い神の原型は、エンリルだということで、それに対して、エンキは常に人類に手を差し伸べた。
 なお、この場面は祭壇における燔祭の原型である。このようにエンリルは人類にとって怖い神なので、伊勢神宮の外宮(げくう)の風宮(かぜのみや)と内宮(ないくう)の風日祈宮(かざひのみのみや)の両方で祀られた。エンリルのシンボルは風である。