アブラハムの登場

アブラハムの登場-------------------------------------------------------------------------------------------

 エンリルが夢物語とその前触れについて考えている間、マルドゥクは国から国へと歩き回っていた。彼は自分の最高権力について人々に話していた。自分の信奉者を獲得することが目的だった。“上の方の海”の土地とキ・エンギ(シュメール)の土地の境界で、彼の息子ナブは人々を扇動し、第4の地域を奪おうとしていた。そして、目論見通り、西の住民と東の住民との間で衝突が起こった。王たちは軍を組織し、キャラバンは行き来を止め、都市の周りに壁が建てられた。ガルズが預言したことがまさに起きている、とエンリルは思った。そこで、立派な家系の子孫、ティルフ(テラ)とその子供たちにエンリルは目を付けた。「彼こそ、ガルズが選ぶように言っていた人間だ!」とエンリルは自分自身に言った。

 マルドゥクはあちこちで自分の正統性を主張していた。彼はあらゆる「神々」の上に自分を君臨させ、彼らの力と属性を、勝手に我が物のように語った。これこそがバアルの原型であり、偶像崇拝の原型である。バアルとは、元々カナン地域を中心に各所で崇められた嵐と慈雨の神で、セム語で“主”を意味し、原型はエンリルである。エンリルの住まいは最初、ヒマラヤ杉の森の横、“着陸場所”の近くにあり、そこは後にバアルベクと呼ばれる場所で、イシュクルに与えられた。それを、マルドゥクが乗っ取ったのである。つまり、神話を改竄(かいざん)した。あらゆる神話は、後にマルドゥクによって改竄された。それが神話の人物関係が伝承ごとに異なっていたり、矛盾したりする原因である。他に、言語がバラバラにされたことも、混乱の要因となっている。

 また、マルドゥクの息子ナブは人々を扇動したが、これもマルドゥクこそがあらゆる「神々」の上に君臨する「神」である、と吹聴していたのである。ナブは、神=マルドゥクの言葉を伝える役割である。選ばれた人間へ“神々の秘密”を伝授することが司祭職、すなわち「神々」と人間の仲介者の血統となった。そして、御神託は前兆を探して天を観測することと混ぜ合わされた。後に、次第に対立する「神々」の両陣営に人類が引き込まれていくにつれて、預言が重要な役割を果たし始めた。来るべきことを宣言する「神々」の代弁者をナービー(ナビゲータ)と言うが、これはマルドゥクに代わって、天空の印がマルドゥクの主権到来を示していることを人類に確信させようとした、ナブのあだ名である。それがまさに、この場面である。

 エンリルは夢物語のことは内緒にして、ナンナルに命じた。
「アルバカドがやって来た川に挟まれた土地に、ウリム(ウル)のような都市を築き、ウリム(ウル)から離れてそこに住みなさい。そして、その真ん中に神殿を建て、神官で王子のティルフ(テラ)にそこを任せるのだ!」
 ナンナルはエンリルの命じた通り、アルバカドの地にハランという都市を築いた。ティルフ(テラ)はそこの神殿の高僧となるよう送られ、彼の家族も同伴した。預言された2つの“天体の部分”が完了した時、ティルフ(テラ)はハランへ行った。
 ハランとは、聖書において、ヤコブがカナンから帰る途中、天へ伸びる梯子(はしご)が置かれ、神の御使いたちの昇り降りする天まで達する梯子(はしご)を見た場所である。そこは山の多い土地と幾つかの川で守られたフルリ人の都市であった。神殿と建物は、ほとんど正確にウルに似せて造られている。

 ウリム(ウル)の王座は息子のシュルギが引き継いだが、彼はこの上なく卑劣で好戦的だった。ニブル・キ(ニップル)で自らを高僧として選別し、ウヌグ・キ(ウルク)でイナンナの外陰部を愉しんだ。そして、ナンナルの目を盗んで、山間地から戦士たちを自分の軍に入れ、西部の国々を占領し、“宇宙管制センター”の尊厳を無視した。神聖な第4の地域に足を踏み入れ、何と、“第4の地域の王”を名乗った。
 神聖を汚す行為にエンリルは激怒した。エンキはその侵略についてエンリルに苦々しく話した。
「お前の統治者たちは、あらゆる国境を越えてきた!」
「すべてのトラブルは、マルドゥクが原因だろ!」
とエンリルは言い返した。しかし、エンリルは夢物語については言わないまま、ティルフ(テラ)に注意を向けた。特に、彼の一番上の息子イブル・ウム(アブラハム)に。イブル・ウムは勇敢で、聖職者の秘密に精通した、王子に相応しい子孫だった。“二輪戦車の場所”の昇り降りができるように、神聖な場所を守りに行くよう、エンリルはイブル・ウムに命じた。

 アブラハムは羊飼いではなくて、エンリルから信頼された神官の家系で、しかも王子であった。ティルフ(テラ)はアルバカドの孫イブルの子孫で、ニブル・キで6代続く神官で、娘たちはウリムの王たちと異種結婚していたので、神の血をも受け継いでいる。また、アルバカド=シャルル・キン=サルゴン1世とは聖書のアルパクシャドのことで、セムの息子の1人。つまり、イブル・ウム=アブラハムはニブル・キ出身だが、セムの直系、ニブル・キとウリム(ウル)出身の聖職者で、王族の末裔である。よってアブラハムの子孫とされるヘブライの民は“選ばれし民”とされている。アブラハムに命じた主はエンリルであり、彼の任務は神聖な場所、第4の地域、“二輪戦車の場所”を守ることだった。